主催:中村キース・ヘリング美術館 協力:キース・ヘリング財団、シミックホールディングス株式会社
中村キース・ヘリング美術館は今年で開館15周年を迎えます。
2007年4月、当館はニューヨークを拠点に活躍したアーティスト、キース・ヘリング(1958-1990)を紹介する世界で唯一の美術館として、八ヶ岳の麓に位置する小淵沢に開館しました。コレクターであり館長を務める中村和男は、1987年にニューヨークで《スリー・リトグラフス(ピープル・ラダー)》*1に出会ったことを機にヘリング作品の蒐集を始めました。現在当館ではおよそ300点の作品のほか、記録写真や映像、生前に制作されたグッズなど500点以上の資料を収蔵しています。本展では新たに収蔵する作品《無題》*3を中心に、コレクションの核となる作品約150点を展示します。
本展では、開館初年度の展覧会「混沌から希望へ」を再考し、そのコンセプトを紐解きます。1978年、ヒップホップ黎明期だったニューヨークに飛び込んだキース・ヘリングは、白人至上主義のアート界とマイノリティが集うアンダーグラウンドのパーティーが交差するこの街に衝撃を受けます。それから僅か5年でスターダムにのし上がり、世界を飛び回る最中に「エイズ」を発症。未知のウイルスとの戦いの末に31歳でこの世を去りました。現在でも人々を魅了し続ける彼が遺した底抜けに明るいアートの裏には、混沌とする社会への訴えや内なる苦しみ、希望と自由への強い想いが描かれています。
2 ヘリングが描き続けたベイビーやドッグなど5つのイコンを、特殊印刷を用いて象徴的に表現した版画シリーズの1つ。 《イコンズ(ラディアント・ベイビー)》、1990年
1980年代にヘリングが描いたアートには、2022年を生きる私たちが世界に向き合うためのヒントがあると考えます。新型コロナウイルス感染症パンデミックやロシアによるウクライナ侵攻によりこれまでの常識が崩壊したことから、長年水面下で渦巻いていた政治不安や社会問題が明るみになりました。今、価値観の多様化が求められています。ヘリングが生きた時代のように混沌と秩序、絶望と希望が混在する時代の中で、私たちはどう生きるべきか考え直す分岐点にすでに立っているのです。
4 最後の展覧会のために制作した作品。従来の即興的な描画スタイルから一転し、本作では自身の 傑作を目指して生涯培ってきた技術を結集させた。 《無題(1988年8月15日)》、1988年
All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation
Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection.