最先端の情報を得てアクセスすることを命題とする社会で、コミュニケーションの手段はますます端的になり、 無数の人と時空を超えて交信することが可能になりました。世界との距離も驚くほど縮まりました。しかし、人と人との距離をテクノロジーは本当に無くすことはできるのでしょうか。
中村キース・ヘリング美術館では2011 年度コレクション展といたしまして、この問いに答えるべく「キース・ヘリングとの対話-バイブルの無い教会-」展を開催いたします。
キース・ヘリングが生きた80年代、コンピューターは未だ一般には普及していませんでしたが、「コンピューターが人間の知性までを操作するようになったら我々の役割はどうなるのだろう?我々に将来と自由はあるのだろうか?」と、へリングは問いかけています。そしてその答えを彼は「対話―ダイアローグ」によって探っていたのだといえるでしょう。代表作であるサブェイドローイングは、彼のアートを通じた対話への試作が表れた作品だといえます。
今展では、ヘリングとの対話が可能になるように美術館の3つの空間を人生のパッセージとし、《 考える部屋 》、《 胎動の空間 》、《 希望の部屋 》というテーマを与えました。
《 考える部屋 》は暗い闇のある沈黙の空間。世の中の矛盾、日常の不安、自己との葛藤が彷彿するような空間です。キースの芸術活動の起源となっているサブウェイドローイングやブループリント作品がダイレクトにメッセージを伝えています。中央に置かれている椅子に座って、目を閉じてみて下さい。自己から解放されて、日常のなかで忘れかけている何かを思い出すかもしれません。
《 胎動の空間 》は未来を予感させる時空。人間はしばし錯覚に陥ることがあります。混沌とした現代社会の虚構に惑わされることもあります。しかしこの空間で鑑賞する「受胎告知」、そしてコレクションに新しく加わった「Day-Glo Painting」からは、確実な明日へ向かって新しい何かが動き始めていることを感じられるでしょう。新しい命の鼓動がこだましています。
そして《 希望の部屋 》は夜明けの光が差し込み、闇から解放されるような空間。世紀末を現した「アポカリプス」の中には人間社会の歪みや、生きている限り心の中に内在する苦悩や混乱があります。生命には必ず終わりがあるように、物事にも終焉が訪れる。しかし終焉は始まりの入り口となり、次の世代へと希望をつないでいくのです。
心の目を開いて、その普遍性を感じて下さることを願っています。
「キース・ヘリングとの対話」 -バイブルの無い教会-
会期: 2011年3月19日(土)~2012 年1月9日(月)
協力:キースヘリング財団
後援:
山梨県、山梨県教育委員会
北杜市、北杜市教育委員会