ブティック『パトリシア・フィールド』はシーンシスターと呼ばれるミュージック・カルチャーシーンに属する者や、セレブ、LGBT、そして世界中のファッショニスタが集う、メルティングスポットとして存在していた。マドンナ、デボラ・ハリー、バスキアも常連だった。1983年イーストヴィレッジのショップではキース・ヘリングがペイントした初めてのTシャツが販売された。「ファッションは着るアート」だというフィールドと「アートはみんなのもの」というヘリングのコンセプトの完璧なコラボだった。また、今は無きCBGBや、伝説のポエトリークラブに隣接する、ブティックのもう一つの大きな特徴は、そのアートコレクションだった。絵画、写真、ポスター、彫刻、版画によるアート作品がファンキーなショップの壁を覆う。ほとんどが無名アーティストの作品だが、煌びやかな衣装とともにそれぞれのパワーを炸裂させていたのだ。
フィールドの作品は、ショップのほか、オフィス、倉庫や自宅に保管されていた収蔵品300点にも及ぶ。コレクションは自身が蒐集してきた作品だけでなく、アーティストやデザイナー、ファンなどが『パトリシア・フィールド』に魅了されて制作した作品の蓄積でもある。「アートコレクションは私のこれまでの50年間のキャリアと思い出のすべて。ハウス・オブ・フィールドの宝もの」だとフィールドが言うように、作品が個々にストーリーを孕んでいる。半世紀にわたって親しまれてきたブティックは2016春に閉店されたが、このアートコレクションの主要作品190点が中村キース・ヘリング美術館に収蔵されることになった。これまでダウンタウンのクラブシーン、ストリートアート、ミュージックシーン、そしてイーストヴィレッジのアンダーグラウンドカルチャーと共にスタイリングされてきた、いわゆるブティックアートが「パトリシア・フィールド・アートコレクション」として新たに展開することとなる。2017年夏に同館にて開催される展覧会ではパトリシア・フィールドの個性的なヴィジョンと、ファッションムーヴメントに多大な影響を及ぼしてきた『パトリシア・フィールド』の起源(オリジン)を探求するものだけではなく、そのユニークなコレクション自体に注目する。作品のほとんどは、往来のアートの傾向やモードに左右されず、名声を目指すことでもなく、自由に表現され、まさに*アート・ブリュットを反映させる。それぞれのアーティストの内面から湧き上がるパワーを、キース・ヘリング芸術と合わせて体感したい。
*1945年にジャン・デュビュッフェが命名したアウトサイダーアート
PATRICIA FIELD
パトリシア・フィールド
1942年ニューヨーク生まれ。
映画「プラダを着た悪魔」(2006年)や、テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティー」(1998年から2004年)で知られるニューヨークのカリスマスタイリスト。エミー賞受賞や2007年にはアカデミー賞にノミネートされるなど、テレビや映画の世界で活躍するだけでなく、1966年にオープンしたショップ『Patricia Field』は、半世紀もの間、ファションとカルチャーに多大な影響を与えた。日本では2008年にヴィダルサスーンのCMで安室奈美恵とのコラボレーションや、アメリカン・エクスプレスのキャンペーンでは、そのスタイリングを表現するという、ユニークなファッションショーが東京で開催された。
2013年メルボルンにて「セックス・アンド・ザ・シティーのコスチューム」展が開催され、2014年には西オーストラリア州パースに巡回した。2016年春『パトリシア・フィールド』は閉店されるが、テレビや映画のスタイリングは現在も第一線で活動を続けている。また、「着るアート」をコンセプトとした「アートファッション」と名付けられたブランドを展開。ファッションをアートとしてキュレーションするという、これまでにない新しいスタイリングの在り方に挑戦している。2016年アート・バーゼル マイアミ・ビーチ(大規模なアートフェア)ではギャラリーでファッションアートを初めて展示。
INSTALLATION VIEW
インスタレーションビュー
FEATURED ARTWORKS
主要展示作品